昨日、共立出版の担当者が訪問してきて、吉報をもってきてくれた。「Common Lispオブジェクトシステム – CLOSとその周辺 -」(ISBN978-4-320-12254-3、2010年8月25日発行 井田昌之、元吉文男、大久保清貴編)である。これは、1989年1月9日付でBIT誌の別冊として出版した同名の著書の復刊である。20年も前のものである!いくつかの点で感慨深い。
まず、夏前に、担当者氏が訪ねてきて、このCLOSの本を再発行したいと言ってきた。それを待っている声がネットをはじめ、いくつかのところであるという。正直、びっくりした。普通、技術書、しかも20年以上前!の本が今でも通用するとは考えない。しかも、日進月歩というか変化の多いITの分野である。当時われわれがオブジェクト指向プログラミングの在り方として活発に太平洋をまたいで議論をし、その仕様の確定に対して積極的に関与してきたことが、20年を経て評価されていると素直に理解したい。Rubyの松本さんがこの本を絶賛してくれたらしくそれも大きな影響があったらしい。
そして、古いものでもその光を保てる新しい部分はある、もっと自分たちのやったことに自信をもって、しかし、こつこつと開発をしていくものだ、プログラミング言語の言語仕様といった分野でもそれは当てはまる、という感想を持つ。CLOS、Common Lisp Object Systemは、その当時、はやっていたSmallTalkやいくつかの仕様とは異なるコンセプトを持っていた。まだ、C++はでていない、CLOSが先である。CLOSは、当時専門家の間で使いこまれていたLisp Machineでの経験と、当時はじまりつつあった標準プラットフォームでのソフトウェア開発への指向の交差点にあって、将来のためになんとかしたいというCommon Lisperによって練られていった。このころにいろいろな文章を作って、学会などで話をしたが、それらの文章も自分のところで埋もれているのに気がついた。しかたなしと思っていたが、多少考え直すべきかもしれない。
値段が5000円となっているので、安くはない。もっとも20年前の版は3500円である。同じ構成にするのにどうするのかとおもっていたら、一冊だけ共立出版に新品同様のものが残っていて、それから起したと聞く。1988年8月15日付の私のサンプルコーディングも載っている。なつかし。当時作っていた委員会のメンバが中心となって、共通例題をたてて、いろいろな言語で書いたらどうなるかやってみようということになって、それも本のメインとしてとりいれた。Common Lisp(オブジェクト指向機能を使わない場合)、Flavors、LOOPS、TAO、CommonObjects、Smalltalk-80、ESP、ObjectiveC、C++である。同じ課題を別々の言語で書いたらどうなるか、毎月会合をしながら、いろいろと議論し、楽しかった。これが1988年の思い出。こういう気分の場所は今の東京に、日本にどこかに作れるか?というのが課題である。さみしいことに私の近辺では難しい。同じようなきらきらとした眼は、ベトナムの若い人たちに教えているときに感じる。なんとか東京近辺でもできないかと思案中である。著者グループには連絡がとれていない人たちもいる。どうしているだろうか?