NHKの番組にMr.マリックが出演していた。手品が好きで、手品の道具の実演販売員をしていた。3歳の子供が目の前で実演してニコッと笑ってくれるのが何よりもうれしく、実演コーナーはいごこちの良い職場で、こんなすばらしい仕事はないと思っていた。ある日を境にして子供たちもバタッとこなくなる。きてもそれはインチキだろ、という眼で見る。仕事にならなくなった。
ユリゲラーの登場によって世界が一変した。多くのマジシャンは仕事がなくなった。すごい、Mr.マリックは感心する。よし、これを乗り越えるものをやってやろう。それで、新しい手品の開発の努力をますます進めた。あちこちに行って世界のマジックの勉強もした。ある日、ホテルのマジックショーでやり方を変えた。テーブルのところへ行って目の前で不思議な技を見せた。みなは驚いた。それまでは、舞台の上でするのがマジックショーだった。
Mr.マリックは語る。「今ではユリゲラーに感謝している。彼を超えようと思って、必死に努力した。しかし、もしあの時、あんなの私にでもできるといっていたら、今の私はなかった。目の前でスプーン曲げを私もやれることを見せただけでそれ以上のことはなかっただろう。でも、それを乗り越えようとして自分の世界を作れた。ユリゲラーのすごいところは、いままでのマジックは、こうなりますよ、などと宣言してから、それを見せるということはなかった。なにが起こるだろうと思わせて、意外なことが起こる、これがマジックだということだった。ユリゲラーは発想の転換をもたらしたんだと思った。そして、テレビ時代の中で、テレビを見ている庶民に対して、あなたでもできますよ、とみている人を引っ張りこんだ。」
日ごろ学生に言っていることの要件がここに表れている。第一に、それが好きなこと。第二に、その好きなことを徹底的に毎日気に留め、技を磨き、精通したこと。第三に、背比べの思想を超えて、それもこやしとして、自分が作れる世界の構築に向かったこと。第四に時代の道具の性質を自分の世界に取り込むこと。