ひさしぶりに、以前に住んでいたボストンの友人の家を訪問したときのこと。おでんを作ろうということになった。OKということで、昔よく使った店へ車をとばし、材料を購入し、下ごしらえというか準備をしておいた。土曜のことである。昔、友人一家とは違う教会に行っていたので、ひさしぶりにその教会を訪問してみたくなり、翌朝はケンブリッジへレキシントンから車を飛ばした。古い友達と会ったりして、なごやかな時を過ごした。昼過ぎに家に帰った。すると外の道に消防車が止まっている。なんだろう?とおもって車を止めて玄関を見る。と、私が朝は最後だったので、ちゃんと閉めていったはずの玄関ドアが開いていて、かつそこに排気送風用の装置がぶらさげられている。
なにがおこったんだ?玄関のところに座っていた消防士が3人。「やぁ、いい天気だね、何があったのかい?」と私が聞く。消防士はにこにこしている。玄関のわきを見ると、黒こげになったおでんの鍋。とても弱火だった(電気なので、かなりの間隔での間欠通電)が、一部にまだ黒くなっていないおでんの具が見える。そうだ!朝にちょっと煮込んでおこうと弱火にしてかけておいたのを忘れたんだ!「そうだよ、それだよ」とにこにこしながら消防士。
ぞっとした。火の消し忘れである。まいった!消防がほんとに来たんだ。あせった。家の中を見渡す。なんともない。煙が充満して、煙センサが感知して消防を呼んだ。少しほっとした。「つぎは気をつけろよ」と声をかけられて、平身低頭。だんだん落ち着いてきて、疑問が湧いた。どうやってはいったんだろう?玄関のカギは壊れていないし、傷一つない。
「どうやってはいったのかい?」「ガレージからだよ」
たしかに、ガレージとの間の通用口のカギの傍の木の部分が、割り箸を折ったようにわれている。そこからはいったんだ。玄関からじゃないんだ。しかし、ガレージにはカギがかかっている。
「ガレージの入口はどうしたんだい?どうやって開いたのかい?」消防士たちはニコニコ笑って、「それは答えられない」
どうもありがとう、と声をかける。さっさとかたづけて消防士たちは消防車に乗って去った。
友人一家はしばらくして帰ってきた。顛末を話して謝った。しかし、当人たちは黒こげになったおでんの鍋と「ひび」の入った通用口のドア枠を見ただけでほかには異常はなし。煙の臭いもない。なので、最初からごく平然。こっちがびびった。
ガレージの外の開閉は異常なし。鍵も壊れていないし、傷もない。通用口だけの問題だ。金具を付け直して、木のそこの部分をもとに戻せば済む。金額もたいしたことはない。
セキュリティの強度の話に講義がさしかかると、いつもこれを思い出す。